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虎軍奮闘 プロトタイガー 後編

マスクに隠れた顔半分。鼻下からだけが見えるその半端な顔にも、容易に感情が透けて見える。それは怒り。鬼瓦のような、怒りの形相だった。
名も知れず闘う戦士にとって、ただ一人、かけがえの無い拠り所だった。そのただ一つを奪われておいて、冷静でいられるような人間ではない。冷静でいる気もない。
「てめえら性懲りも無く!このクズ どもがぁ!!」
人々を脅かす怪人共を、恐怖の底へと叩き落す。いつ終わるかも分からない闘いを、体朽ち果てるまで繰り返す。
轟音響かせ、勢い強く。

しかしその日は勝手が違っていた。襲ってくるのは雑兵ばかり、それらを倒せど倒せど、親玉が姿を現さない。
「ざけやがって!雑魚だけで、俺を倒せるとでも思ってんのか!」
感情を剥き出しに、誘き出すように猛々しく吠える。以前から理性的ではなかったが、それでもその姿は野獣のようだ。

どれだけ倒しただろう。いつにない長期戦に、スーツに包まれた分厚い体が汗に濡れ、露出した口から熱い息が広がる。しかしその体に、闘いを終えた者の充足感はない。ただただあるのは、虚しさだけだ。
「ハァ…ハァ…、ようやく、お出ましか…」
その汗ばんだ耳に、こちらに向かう足音が小さく届いた。幾つも重なる戦闘員の物とは違う、親玉、怪人の者だろうか。
気合を入れて、叫んでやろうと振り返る。
「やあ」
軽い声だった。
今まで戦ってきた怪人達のどれとも違う。くぐもってもいなければ、つんざくようなものもない。若い青年のような声。そしてそれは聞き覚えのある声だった。
「な…ん…」
影から現れたのは、見知った顔だった。
「忠…司」
ぽつりと、自分に教えるようにして、呟いた。

生きていた。
生きていたのか。
野獣のような形相から一転、プロトタイガー、耕三の顔がボロボロと崩れて笑う。戦闘中にも関わらず、涙が出そうな程の激情に襲われる。
しかし、こみ上げたのは喜びだけではなかった。あるいは、それ以上の戸惑が湧いている。
「どうしたんだよ、久しぶりの再開だよ、コウさん」
穏やかに笑う顔は、病室で見てきたものと寸分の違いもない。だから。だからこそ、おかしい。今の自分は、一般の人間には捉える事も出来ぬ姿の筈だ。それでなくとも、この異常な状況下、何故、こうもいつも通りなのか。何故、その名で自分を呼べるのか。
「忠司…」
先と同じく、しかしさらに弱々しく。訪ねるようにその名を呼ぶ。
「酷いな、もっと喜んでもらえると思ってたんだけど」
嬉しいさ。大声で返してやりたいが、本能が彼に近づく事を拒んでいる。
「抱き締め合って、喜び合うものなんじゃないのかな、こういう時ってのは」
こんな風に、と言いながら、大きく両手を広げる。
「あれ、してくんねえの?なんだぁ…、寂しいな」
十字のシルエットのまま、困ったように顔を崩す。眉を顰める。
「それなら、」

「無理矢理にでもやってやるよ」

考えるより先に、脚が大地を蹴っていた。プロトタイガーの姿が獣のように、後ろに向かって跳ねて跳ぶ。
ヤバイ。離れろ。アイツから…。
その予感は当たっており、そして同時に、不十分だった。
跳んだ。そう思ったのも束の間、全身を凄まじい反動で引き止められた。抵抗どころか声を上げる間もなく、関節が軋みを上げる。
見れば、太く逞しい四肢が管のような触手で絡め取られていた。
細くうねるそれは、一本一本が命を持っているように鼓動している。熱を持っている。
「な、き…気持ち悪ぃ…なんだ!? あ…」
右へ左へと視線を泳がす間に、忠司が目前まで近づいていた。まるで、買い物の途中だと、そんな呑気な顔で。
間近で見る顔は、やはり見慣れたあの顔だ。年のわりに童顔だが、自分に比べ随分と整った、所謂今時何処にでもいる顔。しかし、忠司にしかない顔。やはり、嬉しくないワケが無い。これだけ異常な状況だが、胸が勝手に熱くなる。
「ただ…」
三度名を呼ぼうとした瞬間。目の前の口が、三日月のように歪に笑った。
「…久しぶり」
抱き締められた。決して太くはない腕に、包まれる。温かな人肌の熱。いつぶりかに感じる温かい感覚。だが、その優しげなものは長くは続かなかった。
「ただ、…あ…熱っ…!?あ、あぁあ、なん!…ぐ…ぬがあぁあぁッ!!」
ぶすぶすと、焦げるような熱が密着した忠司の体から染みて届く。
「はは、そんなにビクビクするほど喜んでくれんだっ」
「な、何…っ」
誰なんだ。
こんな歪んだ笑みを浮かべる忠司は、記憶の何処にも見当たらない。この身に起きている現象も、とても人間業ではない。こいつは、こいつは忠司の顔を使っているだけの怪人だ。そうに違いない。頭に言い聞かせる。
「違うよ。俺だよ、忠司だよ。そんな睨まないでよ、はは、…酷いな」
まるで心を読んだように、忠司が耕三の唇をなぞる。
「そういえば結局、メロンも食べ損なっちゃったんだよなあ」
「なん…、で、それ知っ…」
「代わりに…」
歯を立て、犯すように。こりこりとした乳首が青年の口に飲み込まれる。水気と同時に硬い痛み、むず痒く挟まれる。
「や、やめ!・・・ぐ、うぐっ…、た、忠司ならっ、なんでこんな事を…」
「なんで?そんな、自分が一番知ってるんじゃないの?ねえ」

言葉に貫かれた。大きな胃袋が締まる。
そうだ、理由ならある。彼の自由を奪ったのは自分だ。友人とも疎遠になり、動くことも出来ず、退屈で変わらない毎日を繰り返すようにしたのは、自分だ。不可抗力とはいえ、恨まれるには充分な理由だ。
本当はずっと。こんな気持を抱えていたのか。太い眉が歪み、男臭い顔がぐしゃりと滲む。何故知っているのかなど、考えも至らない。
「恨ん…で…」
「ああ、そんな顔しないでくれよ。ごめん、ちょっと意地悪だったかな。…それだけじゃないんだ」
子供でもあやすような手付きで、皺の浮き出た顔を撫でられる。細い指に、無精髭がチクチクと刺さった。
「コウさん」
ゆっくりと、その手が体を舐めていく。首、胸、腹。どれもがパンパンに鍛えられ、膨らみと締まりのある体を。
そうしてその終着点、M字に開かれた股の中心、膨らんだ股間に辿り着く。
「な、なにを…」
ぐにゅり。
「あ、ぉぉ…おっ…!」
スーツが柔らかい音を立てて、忠司の手の中で形を変える。
鍛え上げられた胸筋とも、張りのある腹部とも、まるで違うその柔らかさ。鍛えることの出来ない場所。男の股間が、ぐちゅぐちゅと、スーツ越しに揉まれてほぐされる。
「…は、はッ、やめ、ろっ!そんな…」
「やめろって、そんな割には、なんだか悦んでるみてぇだけど?」
年若い青年に、己の性感帯を触らしている。無様に股を開いて、見せつけるように。
その状況に嫌悪感より強く、罪悪感に体を縛り付けられる。されているのは、自分だというのに。
「あ゛、ひっ、はな…せ…」
指の一本一本を不規則に動かし、玉も肉棒も混ぜ込むように揉んでいく。くにくにと、料理するように。
「それにしても、なんか敏感だね。いっつも俺には下品な冗談ばっか言ってたクセに」
軟体を混ぜるようだった指が、次第に動きを変えていく。硬質な物を摩る、淫猥な動きに。
「案外可愛いもんだ、こうなったら」
「はぁ…はっ、何……を」
刺激に煽られ、半勃ちになった股間がスーツを持ち上げる。高伸縮なスーツの中、くっきりと形を主張する。
抵抗しなければ。そうは思うが、体にリキを入れようとする度、目前の「顔」に止められる。もしも彼の体が人間だった時と同じならば、力加減を間違えればその先にあるのは悲劇だ。あの時以上の。
プロトタイガーの脳裏に、気を失った忠司の顔がチラつく。
「ほらほら、いつものエロオヤジっぷりはどうしたんだよ」
「やめ…ろ!や…て…く…れ!さわ…な…、そこ…ソコ!おっ…ふっ!」
「ここ?ココがいいんだ。なら喜んだらどうなんだよ、もっとさ」
口では拒絶しているが、刺激に弱い体はどんどんと形を変えていく。息が熱を帯びていく。逞しい胸、腹と、膨らんだ体にもう一つ、股間という小山ができる。

忠司の前では大っぴらにおどけて見せていたが、実際のところ経験が多いわけではない。その理由の一つが、盛り上がりと共に正体を現した。
「ははは、こっちも可愛いみたいだ」
皮被りの、粗末なそれ。
スーツを盛り上げている隆起は、ぴっちりと二重に包まれたフォルムを見せていた。
「正義のヒーローのチンポなのになぁ、こんな可愛いなんて」
どこもかしこも、ガチぶとに鍛え上げた体の中心。ただ、そこだけが不恰好に幼い姿。それが忠司の腕に暴かれる。小山というのが相応しい。控えめなチンポ。
「お、おぉぉ…!…やべっ…でくれ!ただ…ぁあぁぁ゛!」
スーツ越しに、皮を掴まれ亀頭扱かれる。肉茎を上下に扱かれる。
その度に、そこが操作レバーであるかのように、プロトタイガーが体をぐねぐねと操られた。久しい快楽の味に、中年の性欲が煽られる。いかにヒーロースーツで身を包んでいても、体は性器盛んな一人の男だ。気持ちい、気持ちいいと、体が歓喜に打ち震える。
「おっ!おぉ…ん!駄目…だ、それ、それダメ…あぁぁ…!」
堪え性のない初心な肉棒が、我慢汁をベタベタと垂らす。その液体を潤滑油にして、皮の動きが激しくなる。
「だ、だめ、…だ、もうっ!!あ、…イっちま、だ、ああぁあぁ゛あ゛ッッ!!!」
開かれた股を更に大きく開け、太く逞しい足が小刻みに震える。
敵の目には勃ち上がった股間を晒し。扱く手には精子の脈動を晒して。びゅくびゅくと、プロトタイガーは情けなく精を吐き出した。あぁ゛、あぁ゛。と、濁った喘ぎ声に合わせて、四角い体が痙攣した。
「あ゛…あぁ゛……ただ、しぃ…」
「…いい格好だ、コウさん、いや…プロトタイガー…」
包むように皮を絞られると、ぐちゅりと、情けない水音を立ててスーツに染みができた。



青空の下、昂った熱の収まりと共に、局部の熱がプロトタイガーに届く。それは、己で出した精液の熱。何日と溜め込み、たっぷりと濃度と熱さを蓄えた、男の精の熱さだ。
改めて、己の体を脳裏に映す。顔が赤く染まる。
「可愛いよなあ、ほんと」
「み、みるな…みないで、くれ…」
くりくりと、射精したての亀頭を転がし、忠司が笑う。剥き出しのそこに対しての、直情的で性的な刺激。煽られた股間がさらに濡れ、そこだけがお漏らし姿のように広がった。
無骨で大柄、下品で粗野。そんな耕三を指して可愛いなどという言葉は、まるで縁遠い。からかっている事くらい、この異常な状況下でも分かる。
「耕三さん、俺と一緒に組織の元に来なよ…、俺の元に…。たっぷり可愛がってやるからさ」
「ば、かやろ、ひ、俺は、ひ、正義の…」
先端の刺激に声を裏返らせながら、しかし言葉は重く真っ直ぐだ。歯を食いしばりながら低く声を出すプロトタイガーに、忠司が冷たい目を向ける。
「そうか…、じゃあ、コレ浴びても、そんな事言ってられっかな?」
ぶちゅり、ぶぴゅり。
液体が飛び散る音。空気の押し出される醜い音。プロトタイガーを囲うように音が響いた。かと思うと、体に生温かい飛沫が飛んだ。見ると、絡む触手の先端から多量の液体が吐き出されている。
「な、なんだコリャ!き、気色悪ぃ!」
触手が暴れるホースのように動き、プロトタイガーの全身を染め上げていく。液体がじわじわと、スーツに掛かり染み込んでいく。

「ベトベトッ…して!なんだ、気持ち悪ぃ…!」
「逆だよ」
罵った口の間近、忠司が顔を潜り込ませる。
「気持ちよくなるんだ、コレで」
「気持ち!?…何、言って…!?」
「気持ちよくなって、おかしくなって、俺達の仲間になるんだ」
再び、口が爬虫類のようにしたたかに笑う。楽しそうに、目が歪む。
「ふ、っふざけんじゃねえ、目ぇ覚ませ!ただ…」
「さあ、たっぷり飲んで」
名を呼ぶことも許されず、返ってきたのは残酷なものだった。
白い液体が、びちゃびちゃ跳ねて顔面を叩く。咄嗟に口を閉じたが、しかし間に合わなかった数滴がプロトタイガーの口に入った。生臭い。ほんの数滴だというのに、異常に口中が発酵している。鼻にまで、内から外からと生臭さが届く。ケモノのようだ。本物の獣のようだ。
これは、飲んじゃならねえモンだ。戦士の本能がそう告げる。
「いい加減に、しねえ…か!」
辱めを受けるのも、嬲られるのも堪えられる。しかし、正義を汚すような真似は、いかに忠司といえど許さない。ヒーローとして、許しておけない。
「ゆ、許せ!ただし!」
反動は怖いが、しかし思い切り、引き千切る事を選んだ。血管が膨らみ、筋肉が膨張し、腕に絡んだ触手が鳴く。

ぐらりと、景色が歪んだ。しかしそれは体が開放された反動ではない。体が弾性を持って引き戻された歪みだった。
細い管のような触手は切れるどころか、以前にも増して強い力で縛り付けてくるようだ。
信じられないといった顔で、管を見る。力ならば誰にも負けない自信がある。それが通用しなかったのだ。こんな細い触手程度に。
「な、なんで!…だ」
「優しいよなあ、コウさんは…。こんなになるまで俺のことを考えてくれたんだから。でもさ、ほら、そんな甘いこと考えてるから…。もう逃げられないんだ、プロトタイガーは…」
「ちッ力が!…俺の、ああ、なんで…あぁぁ体…が!」
「熱くなってきただろ」
「っう…」
図星を差され、呻きが止まる。息の荒さは、体力の消耗だけが原因ではない。その通りだ。そう、体が答えている。達したばかりの股間が熱く燃えて、スーツの生地を押し上げている。先と同等、いや、それ以上だ。それ以上の欲望が燃え上がっている。
駄目だ。駄目だ。駄目だ。
「もっとコレを飲んで。ほら、いい子だから」
子供をあやすように、ふざけた台詞で手を伸ばす。その手には、薄白い液体が波々と浮かんでいる。
こんなにうまいのに。忠司は言いながら、手首に溢れた白い液体を口に入れる。誘うように淫靡に。おぞましい筈なのに、どこか官能的ですらある。気がつけば、あんなにおぞましかった口の液体が、甘美な匂を発している。
とろり糸引く液体を、飲み干したい。口にしたい。浸りたい。
独り身の中年の性だろう。そんな欲望が、下半身から湧いている。その欲望に、何度も太い首を振って抵抗する。
「ほら、もっと素直になりなよ」
若々しいい手が、中年の四角い顎を掴む。への字に閉じた大きな口に、指先が強引に割って入ろうとする。
「ん!――んーぅ!」
やめろ。
叫ぼうにも、口は塞いでいる。

「さ、口開けて」
穏やかな声と共に、ぷっくり膨らんだ股間が睾丸ごとキツく握られた。激痛、そう言ってよいはずの刺激。しかし、
「ん、む、むんん!」
荒だった息には、甘さが混じっていた。スーツ越しに撫でられるだけで、電流が体中を暴れる程に気持ちがいい。口から息と声が溢れ、そうして空いた僅かな隙間に忠司の指が差し込まれた。
「ははは、美味しいかい」
口中に広がる、苦く、そして甘い味。

「は…ン…おぉ、おんうぅっ!」
一滴が口に流れて、耕三の理性がまた一滴流された。厳つい声が裏返り、淫らな色で顔を濡らす。開いた口にはさらに、ベタベタとした液が大量に流れ込む。
「ゲェ!や゛め…、…な、なん…だ、ごんなッ!?」
玉袋が暴れているようだ。睾丸から今すぐにでも精液がこぼれ出ていきそうな、強烈な欲求。管を流れて、精液が噴出しそうな濃厚な雄の感触。
「ああ、クソ…!くそぉ!」
催淫作用などと生易しいものではない。強引に男を性欲漬けにする、猛毒と言って良い薬物。
体が出す命令のままに、搾り出して快楽を味わいたい。何もかも忘れて、一匹の雄になって壊れたい。ヒーローの宿命を背負っていなければ、今すぐ猿のようにコイていただろう。
正義のヒーロー。ただそれを支えにして、懸命に歯を食い縛る。それでも口から垂れた涎が、分厚く大きな胸板に落ちた。
「ア゛!?なん゛…!?」
ぽとりと落ちた涎が、硫酸のように湯気を立てる。その湯気の晴れた所には、スーツの下の耕三の素肌が露出している。
「ああ、言ってなかったね、そいつは他の液体と混じると、強烈な溶解能力を持つんだ」
「な、…じゃ、じゃあ」
「そう、さっきから、見えてきたよ、コウさんのおちんちんがね」
導かれるように、プロトタイガーが視線を下に向けた。そこには、濡らした股間に合わせるように広がった大きな穴があった。
包茎ペニスを中心にした、大きな穴。
全身を覆っていた筈のスーツが、無敵のヒーローの象徴が、己の精液で壊されている。でっぷりとしたケツ、毛深い尻の谷間や、蟻の戸渡りまで、下半身の恥ずかしい部分が、何もかも晒されている。
そしてなにより、おちんちんとまで呼ばれるような、可愛らしい部位。丸太のような太股のせいだろうか、より一層貧相な、新芽のような幼い姿。

「み゛、見るなぁああ゛!!」
いつの間にか拘束は外れていた。自由になった腕で、局部を覆い隠す。憎き敵の目に、息子に近い年の差の青年に、曝け出すには情けなさ過ぎる格好だ。プロトタイガーの、耕三の厳つい顔が羞恥に歪む。
「ひ…ん!」
しかし、その羞恥の顔すらも壊される。覆い隠そうと直に触れたその刺激に、体が弓なりにしなる程の快感が流れる。普段一人でするセンズリなどとはケタ違い。ほんの少し触るだけで、今まで味わったこともないような官能が得られる。得られてしまう。
「み、みるな、みないでくれ、俺を…あぁ゛」
隠そうとすればするほど、蟻地獄のように深みに嵌っていく。触れた快感に腰を引けば、突き出したケツに指が当たる。そこから逃げれば、また股間が擦られて快感が走る。もがけばもがくほど、情けないオヤジヒーローのオナニーショーのようになっていく。
「はひ!あ、駄目だ…ち、違う…これは、ああぁ!」
太い腕からは力が抜け、尻だけを突き上げた姿のまま、体を震わせる。
「あぁ゛…!もう…また…また…俺、は!あぁあぁ゛!」
涎が地面を舐めると、プロトタイガーの巨体がビクンと大きく弾んだ。ジュウジュウと音がして、手を覆うスーツが溶けていく。また一つ、ヒーローの証が快楽に溶かされたのだ。
「ち、違う……、これは…俺は…っ…!」
プロトタイガーは悔し涙を流しながら、しかし股間からはそれ以上に大量の精子を垂らしていた。






「ひ、がぁ…あぁァ!」
触手の拘束を解かれたプロトタイガーは、吐精後の脱力感から力無く地面に項垂れた。巨体が崩れ、ドシンと重音が響く。濡れたスーツが湿った音を鳴らす。屈辱にまみれた顔が赤く染まる。全身を濡らす薄汚い液体、それに並ぶように肉棒からは未だにどくどくと精が溢れている。
堪えることしかできない。異常な欲求に腰は砕け、闘うことも、ましてや立ち上がる事など出来もしない。
「ち、畜しょ…こ、こんな…、情けね…ェっ!」
栓の壊れたような包茎チンポを、大きな指で覆って隠す。その指も既に、毛深い生肌を露にする程にぐっしょりと濡れている。
「ひ…ぐ!ま、まだ収まら…」
飲まされた液が全て精子に変えられてしまっているようだ。小ぶりな肉筒からは、開放感と甘い痺れと共に何度も何度も精液が込み上げる。その度に、プロトタイガーの眉がハの字に歪む。

唸って痙攣を繰り返す、そんな情けないヒーローを取り囲み、戦闘員が爪先を向ける。骨を固めて人型に似せたような足が、勢いよく弾力ある大きな腹を蹴り上げた。
「ぐ、げ…ぇ!」
股間を抱えて丸くなっていた体が、僅かに跳ねて宙に浮く。
「うごぉ…あぁっ!」
浮き上がった広い背中が、今度は戦闘員の薄汚い足に踏みつけられる。横から蹴られ、仰向けにひっくり返る。黄色いスーツの中、そこだけが目立って汚れている股間が揺れる。絞られた体から、大きく開いた口から、どろりとした液体が溢れて垂れた。

「てめえら、い、いい加減に…も、ごおぉ!」
しかしそれでもと、疲弊した体に鞭打ち、心を震わせ、立ち上がろうと歯を食いしばる。その前を睨むようにした顔に、再び白い塊がぶつかった。吐き出したものを補わせるかのように、白濁した粘体を垂らす触手がプロトタイガーの口に飛び込んでいる。陸に上がった魚のようにビチビチと暴れ、大きな口をさらに大きく開かせる。口内で破裂しそうな程に、多量の粘体が弾けて注ぐ。
「おぉ、も、ごああおぁおお」
青い匂いが再び、プロトタイガーの口に鼻に充満する。ドボドボと濁流のような勢いで、粘液が注ぎ込まれていく。飲みきれなかった飛沫が、四角い顎から流れて落ちる。
「んぅ、ぐも、むぅぐッ!」
宙に浮いていた太い二の腕が、何かを掴み倦ねているように指を律動させる。その僅かばかりの抵抗も、白い快楽に飲まれて消えていく。液体を流されれば流されるほど、抵抗を失っていくプロトタイガー。それに気を良くした触手がさらに、体の奥、喉の奥へと触手が数を増していく。
線のようなもの、性器程のもの、多様な赤黒い線が重なって、プロトタイガー心を壊していく。
「も゛う…ばぃら…あ゛ぁああ…!」
固く膨らんだ腹は、触手の吐き出した液体でさらにでっぷりと膨らんでいく。苦痛の声が漏れているが、しかしプロトタイガーの太い股の間は嬉しそうに汁を漏らす。
「ああ゛…ああ゛!」
触れてもいない包茎が、プルンと弾んで先走りを飛ばす。
「からだ、からだがッ!…ちん…ああ、ちんぽがっ…、熱い…」
先はあの程度の量で、あれだけの快楽に襲われたのだ。流された液の量だけ、もしもそうだとしたならば、どれだけのことになるのだろう。恐れは一瞬だった。恐怖を感じる前に、体は答えを出した。
(触るな、お、俺に触るな…!)
足蹴にされる。砂をかけられる。
酷い扱いを受けているというのに、心は屈辱を感じているというのに、体は今にも溶けてしまいそうな程の快楽で身悶えている。だらりと伸びた舌が、涎のように白濁液を垂らす。全身のスーツから蒸気のように湯気が出る。
それが、歯を擦る程に屈辱だ。
「も、いく…、イく……ゥ!」
なのに、噴水のように精液が、音たてて
ビタビタと胸へと掛かり、ぐっしょり濡れた胸毛が見えるまでにスーツが溶けた。過剰な快楽に慣れていない包茎が、暴れまわって汁を飛ばす。
「こ、壊れ…おれの…こわれ…っ」
今出しているのは、先走りなのだろうか。小便なのだろうか。やはり精液なのだろうか。
もう判断がつかない。ただただ気持ちがいい。頭が吹っ飛びそうなほど。
おおお。がっちり太い両腕で股間を隠して、プロトタイガーが雄の声を切なげに裏返させる。
必死に肉棒を隠しているものの、快楽に喘ぐ下半身はだらしなく開き放しだ。股を全開に開いて、しかし股間には手を当てている。矛盾したその行為は間抜けで、かえって卑猥ですらあった。

その最後の抵抗の腕が、横からの手に引き離された。
「ほら、もっと楽しい事して遊ぼうよ、コウさん」
「やめ、やめろ!そこは、そこだけは…!」
己の指よりずっと細い、忠司の指が肉棒に触れる。体温も違う、毛も薄い。しかし風俗嬢のそれとは違う、男の指。
「そんな゛…!こと、すっ…!」
皮を剥かれ、掌に包まれる。上下に扱かれる。
簡単なものだ。覚えたての小僧の、せんずりの真似事くらいにシンプルなもの。しかしその程度のものすら、今のプロトタイガーには、耕三には、体を焦がす程に気持ちがいい。
「んが、が、が、…ぃぃ!…ィ…!ぉぉぉ!!ォオオッ!」
「凄いなぁ、扱いたら扱いた分イっちまってるよ」
牛の乳搾りにも似た光景だった。ぐにゅぐにゅと包まれる分だけ、生成されたばかりの精子が掌へ搾られ溢れる。
出しては注がれ、また出しては飲まされる。射精する器官に、体を丸ごと変えられてしまったようだ。

飛び散った精液が、中空を暴れまわる。逞しい太股、毛深いふくらはぎ、弾力のある腹、固い胸。ヒーローとして平和を守っていきた誇り高い体が、虫食いのように惨めな穴を作っていく。他の何でもない。己の精液で。
岩をも砕く腕も、今や相手の細腕一つにもあがらえない。投げ出され、ただ時折に過剰な快楽に己の頭を抱えるだけだ。
「ぐひっ、んぐ……、ぉぉぅぅう!」
無理矢理こじ開けられた口からは、喘ぎ声と、下品な水音が交互に響く。

「ほら、コウさん…」
たっぷりと搾り取った精液を手に取ると、その指をプロトタイガーの尻へと伸ばした。でっぷり大きな双丘の谷間、うっすらスーツに影を作るそこに先端が触れる。
「ただ…!あ、ひぃいぃ゛」
止めさせようと腕を掴むが、その握った掌の感触だけで感じてしまう。ヒーローとしての威厳どころの話ではない。一人の男としての威厳すら、この快楽の前ではひび割れてしまいそうだ。
「あぁ…お゛ー、…ぁぁぁあ゛ー…!」
碌な抵抗も出来ずに、プロトタイガーのスーツが溶けて消える。誰にも見せたこともない毛深い尻の穴が、ついに白日の元に晒される。
「お、おい…、まさか…コイツ…ら…」
穴と見るやいなや、細い触手が束になってプロトタイガーの下半身に集まった。一本、また一本と、肉を掻き分けずぷずぷと、本来出すためだけの部位に次々と。奥へ、もっと奥へと侵入する。
「あ゛…あぁあ、熱ぃ!…あぁ、くぞぉぉぉおお!」
昼夜の街中で、敵の手に掛かってこんなにも屈辱的な目に合っているといのに。
腸内が焼けるように熱い。
肉体が燃えるように熱い。
いつしか体は勝手に、受け入れるように力を無くしていた。抵抗しなければいけないのに、背骨が抜かれたように全身が緩くとろけている。
「せい…ぎ、お、れの…、俺の…正義、…が…」
犯される。犯されている。
ぐちゅぐちゅという音を聞きながら、プロトタイガーはムッチりとした巨体を前後に揺らしていた。やがてはその苦痛の声も消え、あ゛ぁ、あ゛ひ…。と濁った声へと変わっていった。



「せん、せんせえ」
「ああ、耕三さん、もう終わるところですよ」
背を丸め、声をひそめて、怯えたように声を掛ける。普段なら巨体をピンと包んでいる作業着も、皺が前に寄っている。大きな体を縮めた姿は、必要以上に弱々しい。騒ぎ立てて叱られている普段のそれと遠い姿だ。
「声、かけてあげてください」
「あ、そりゃ、もう…ハイ」
週一度以上は訪れる耕三だが、特にこと検査の日であれば、必ずといっていい程にここにいる。そうしてその度、心苦しそうに、気まずそうにしているのだ。
足の病状の進行と、訓練の経過。忠司が恐れているのと同じに、それ以上に、心を賭して心配している。その日もまた、落ち着かないといった様子だった。すぐに部屋に向かいづらいのか、白い廊下の片隅で、どっしりした背を壁に預け、耳を預けている。
「コウさん」
その壁の向こうから、小さな声が響く。驚きで壁が、ドンと悲鳴を上げた。
「子供じゃねんだからさ、ほら」
いるのが分かっている。決まりきった口調で忠司が言う。扉からひょっこりと顔だけを出す耕三に、可笑しそうに笑って手招いた。しょげた子供のような姿が、可笑しくて堪らないというような顔だ。
声に手を引かれるように、扉をくぐる。
「…どう、だった」
「別に、今まで通り、変わんないよ」
「そう、か」
至って穏やかな顔で、何度も口にした報告をまた、今日もする。残念だ。しかし同時に、ホッとしたような気持ちもある。回復は遠いが、それでも悪化はしていないのならば、希望はある。
「どうせなら、もう、ハッキリしてくれりゃいいのにな」
「え…」
「ああー、なんでもない、よ」
余程退屈なのだろう。変わらない。それを口にする時の忠司は、歩けないと言う時のそれより暗く見えた。
「忠司…足、な…」
「そうだ、コウさん…また話してよ、街で噂の変なヒーローってやつ!」
「え、あ…、おう…、任せろ! しかし、…へ、変なって…お前なあ」
一応カッコよく戦ってんだぜ…。
言えるわけもない不平を、眉にだけ表し頬を掻く。確かに美しいようなものではないだろうが、こうも無邪気に「変な」と言われてしまうとどうにも悔しい。
「よぉっし話してやる!あれはー…えっと、俺がー、買い物行こうとした時だ…」
闘ってるのだ、いつも。正義と、平和と、そして何より…。



「お、おれ…俺は…」
朦朧とした意識の中で、プロトタイガーは己の記憶の中で溺れていた。それが幸せなイメージであるほど、その差異が狂おしい。この、今の己の状況と。
「あ゛…ひ、」
もう何度達したかも分からない。今肉棒から流れているものが、精液なのかも分からない。
過剰な快感に体はとうに壊れ。何もかもを垂れ流せと、脳髄に繰り返し命令が走る。それに従い叫ぶように、喉が広がり声が上がる。
「え゛…ぅえ゛!ぐ!…く…そ…ぉお゛」
イキ続けている。吐き出した精液が肉棒を滴る。その感触すら快楽になる。体は痺れ、過剰な多幸感に脳は震える。気を抜いてしまうと、自意識が快楽の底に沈んでしまいそうになる。皮はぐにゅりと剥けきり、根元から先端までテカテカと濡れていた。
反った首、喉仏が膨らみ震え、屈辱と快楽に汚れた声を出す。

今、プロトタイガーはその太ましい肉体を、代わる代わるに犯されていた。
戦闘員の指に、怪人の性器に、そして忠司に。尻の奥を抉る熱に、腸から腹へと焼けて焦がれる。スポットを突かれる度、尻から性器へ脳天へと、快楽の電撃が走る。
「ガラララ!また噴き出したゾ!」
「体がデカいだけに、いくら吹き出しても吹き出しても、萎まないなあ!」
「しっかし、情けねえチンポだ。射精してるのにこの程度とはなあ!」
絶頂を味わう度、周囲からは笑い声が大きく上がり、罵られる。
「コウさん、ほら気持ちいいかい?」
助けるべき相手に、守れべき相手に犯される。ヒーローとしてのプライドが、男としての自信が嬲られる。丁度このスーツのように、ボロボロに。
「コウさん、もっと素直になりなよ」
忠司が腰を穿ちながら、笑って語る。ぐちょぐちょと、水と汗と精液が混じって音がする。
「ヒーローなんてやめて、俺と一緒に、毎日セックスして過ごそう。いつも気持ち良いことだけして、楽しく暮らそう」
恐ろしい言葉が、笑いがちに耳元で囁く。彼は本当に変わってしまったのだろうか。憎んでいるのだろうか。掠れた意識の中でも、その悲しみだけは残っている。胸を抉る。
「きっと楽しいだろうよ、毎日毎日こうやってセックスだけして、頭がおかしくなるくらいに気持ちがいいんだ」
「やめ、え、む…むぅう、おあ゛…、おおぉ……!」
突き上げの度、エビ反りになった体が汁を飛ばす。張りに張った腹がテカり、逞しい胸がぐにゅりと揉まれる。黄色と黒に彩られていたヒーロー姿は、粘液の白と精液の痕で、虎の姿とも見つけないボロボロの様子に堕ちている。
「ほら、全身こんなベタベタだ…。これをもっと、もっとするんだ。ずっと…ずっと…永遠に…」
「た、だ、…」

その胸を穿つ言葉の最中で、はたと。悔し涙と涎でぐちょぐちょの顔に一筋、光が宿った。
あらゆる液でぐちょぐちょになった顔を向け、乾いた笑いを浮かべる忠司の顔を、じっと見返す。
彼は、忠司なのか。別人なのか。
いつも代わり映えのない部屋に閉じ込められ、窓外を見ていた彼が、こんな事を言うのだろうか。永遠に。などと。
「た…だ…し」
手を伸ばし、頬を触る。温かい。やはり、紛れもない彼の顔だ。しかし、それで絶望することはない。彼が本物か、そうじゃないのか。本当に重要なことは、そこではない。一度は遠のいた意識が戻って、それにようやく気がついた。
今の彼がやっていることは、紛れもない悪だ。操られていようが、別人だろうが。どの道止めなければならないのだ。
大人が殴ってでも、正さなければ。たとえ嫌われようと、それが批難されようと。殴るこの手が痛かろうと。
「こ…の、おお、ばか…や…ろう……!」
拳を振り上げる。風が唸る。全身の力を、ただその一箇所にだけ込めて、握りこぶしを固くする。
「な!?コ…コウさん!」
ぶん殴って、それでまたどうにかなったら。一生かけてでも償おう。それが、正義の味方の責任だ。それが、ひとりの友人としての、俺の責任だ。
「う、ぐぉおおおぉぉ…」
形だけの叫びだった。もはや喉も枯れ果て、叫ぶ気力も僅かにしかない。しかし、それでも、意地と意思を持って心で叫んだ。


小さな音だった。
叫びに比べてもさらに小さい、蚊の鳴くような小さな音。握る拳のギリギリという筋音の方が、大きく聞こえるようなものだった。それが、忠司の頬から小さく響いた。ペちり、ぺちりと、水の弾むような音。
何度も、何度も。
食いしばった歯から、握った拳から、悔しそうな軋む音が聞こえた。彼ら、敵を恨むようなものではない。己の半端さに、不甲斐なさに。歯噛みするような、そんな音。

「コウさん、甘いよなあ…」
殴られた、というよりも、触れられた頬から汁を滴らせながら、忠司が声を出した。
「そんなんじゃあ、正義の味方失格だ。コウさん…」
腕が、頬にかかった手を掴む。
「俺は、こんなに酷えことしたのにさ。まったく、殺してやるぐらいの力で、殴りゃいいのに」
震えが忠司の腕へと伝う。それは、耕三の心の震えそのものだったのだろう。頬と腕に、微かに感じる。
「俺は、正義の味方プロトタイガーを仕留めてこいって、言われたんだよ…」
氷の割れるような音がした。ピシリと、鋭い音がした。
「これじゃあ、目的は果たせねえよ…なあ」
「…な、に」
耕三が、プロトタイガーが目を開けると、そこには想像もしなかった光景があった。

掴んだ忠司の頬が、腕が、ひび割れている。割れるような音は、そこから漏れていた。音は次第に大きくなり、合わせてひび割れも大きくなる。
丁度、ボロボロに壊されたプロトタイガーと同じように。
剥がれた破片がプロトタイガーの体に、黒い雪のよう積もっていく。剥がされたスーツの穴に重なるように。
「ど、どうして…」
動揺はプロトタイガーだけではなく、囲う怪人と戦闘員達も同じだった。皆口々に、馬鹿な、ありえない、と騒いでいる。本来、「ありえない」ような事なのだろう。この事態は。
やがてプロトタイガーの前には、見慣れた病院着姿の忠司が立っていた。顔色の悪さも、髪の荒れも同じ、見慣れた姿。それが目を閉じ、プロトタイガーの腹の上へと倒れこんだ。

重い。男一人分の体重が体に覆いかぶさっているのだ、当然だ。しかし、プロトタイガーはふっと、体が軽くなるのを確かに感じた。
「グ、テメェ、ら…」
枯れたはずの喉が、叫ぶ。
「覚悟、しやがれ…!この、卑怯者どもっがぁあああ!!!」
分かっていることはろくに無い。分かっているのは、こいつらが人を襲い、仇なし、害をなすこと。ただそれだけ。しかしそれで構わない。自分の仕事は考えることではない。尤も、しろと言われてもできないが。
やれることも、やることも、ただ、一つ。



「おーい、入んぞー」
「まぁた、開けてから言う」
「ぁあー、わり、わりい」
さして気にした風もなく、頭を掻きつつ耕三が扉をくぐる。
「どうだ、調子は」
「相変わらず」
「そおか」
半壊した病院から移り、違う病室。場所は変わってもしかし、そこでもさして変わりはない。忠司はあの一件は何一つ覚えていないらしく、耕三の外傷もそれ程長引くものではなかった。元通り。忠司の脚も含め、良い事も悪い事も、二人の間は元に戻ってしまった。
「ま、のんびりやろうや。いっくらだって、待ってるからよ」
「…ん」
どしんと、分厚い胸を叩く音が低く響く。変わっていない、ように見えたが、しかし忠司の顔も、耕三の笑顔もどこか違って見えた。

「そだ、見ろ!メロン買ってきてやったぞ!」
「おーコウさん太っ腹!」
本当は二個目になるメロン。以前買ったものよりさすがに小さい、質も安物になったしまった。しかしそれでも、財布の中には金の代わりに雪が積もっているように寒い。
「待ってろ!切り分けてやる」
「え、大丈夫なの?看護師さん呼ぼうよ」
「どぉいう意味だコラ!」
「病院ではお静かに!」
唾を飛ばし、耕三が怒鳴る。その声を追うように、壁の向こうから神経質そうなお叱りが届いた。怒声から一転、情けない声で耕三が頭を下げる。忠司が腹を抱えて笑う。
「あー、ここの婦長さん相変わらず怖えなあ…。胸はでかいんだけどなあ…。まー若造には、もっと若い、メロンな姉ちゃんのお店の方がいいだろうがなあ」
「だから、やめろって!そういうの!オヤジ臭い!」
照れんな照れんなと、大仰に納得する振りをする。頭が叩かれた。
「お、俺、初体験はえっと…その、好きあった相手とすんだからな!」
「え」
顎が開いて、声が出た。
忠司の年齢から考えれば、十分に考えられることだった。そういう耕三自身も、このぐらいの年齢ならば「まだ」であった気がする。しかし、そうなると、
「……、まさか…責任問題…じゃねえだろうなあ…」
「責任?なにが?」
「あ、いや、なんでもねえ!ほうら、切ってやる!待ってろ!」

また一つ、言えない事が増えちまった。
ボソリと冷や汗に体を乾かせつつ、耕三は大きなメロンに切り込みを入れた。甘い匂いが、オレンジ色の果肉から広がる。いい匂いだ。
その匂いに釣られて、腹がグゥと大きく鳴った。難しいことは得意ではない。耕三はさっさと悩ませ顔を引っ込めて、目の前の美味しそうな果実にかぶりつく事にした。




  1. 2010/05/23(日) 19:43:10|
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