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しっかりものだと言われるけれど

わー石川くんてばケーキまでつくれるんだぁ、などと煽てられて悪い気もせず、終わってみればこんな時間だ。
騒いで遊んで片付けて、終わり際にはクラスメイトを送り届けて、一番頼りになるからと、色々と体良く扱われた気がする。
しかし体の疲労は気持ちのいいものだった。
すっかり遅くなった帰り道、クラッカーの音も、偉そうな同級生の喚きも、勝気な少女の怒鳴り声もない、静かな道だった。白い息を残しながら一人歩く。

楽しみながらも、パーティの最中14回ほど考えた恋人の顔浮かべながら、石川全は冷えたアスファルトをほんの少し駆け足で歩いていた。

着いた寮は街灯の明かり以上の光はなく、驚くほどに静まりかえっていた。馬鹿をしている人間のひとりもいない男子寮。試験前すら見られるようなものでない、珍しものだ。
日付も変わる段になって、改めてこのクリスマスという言葉の力に驚いた。

靴を揃えて脱ぎ、足音を消して靴下を床につける。ぎぃと軋む音はほんの僅かだ。時計の音だけがコチコチと鳴っている。
先に帰った同室の二人はもう寝た頃だろうか。
そんな事を気にしながら、襖を開ける。部屋に入る。靴下が踏む床が畳になった。

眠っている。
四角の飾り気ない眼鏡に写った姿は、同室の二人ではなかった。

「ただいま」
全は小声で、恋人、相沢博にそう言った。

起こしてはいけない気持ちが半分、起きて欲しい気持ちが半分だった。恋に焦がれて、という訳ではない。起きて欲しい気持ちのさらに半分は、苛立ちだった。

またこんな格好で。
冬、年末近くのこの気温だというのに、博の上半身はランニングシャツだけだ。着古した汚れや染みが残っている。何着かあるが、これは特に着る回数の多いものだ。そんな事も分かるようになっていた。

「ただいま」
布団で眠る博に三歩近づきもう一度声を掛けた。

起きていて、待っていて、ようと一言声をかけてもらいたかったのだ。心の中では。
クリスマスの夜に、なにも進んで恋人を一人にしていた訳ではない。行って来いと背中を押したのは当の博だ。「がくせーのうちに味わえる行事ってのは、お前さんが思ってるよりずっと重たいんもんだぞ」と、文字通り背中を押してそう言ったのだ。

人生の先輩の言葉に素直に頷き、思う存分に馬鹿騒ぎを満喫してきた全だったが、一方で諦めたわけではなかった。
彼のうちでは、どちらもする、と、そんな答えを出していたのだ。勝手に。

「なんで、寝てるんだ」
改めて整理すると、やはり腹が立つ。
博が悪いことをしたわけではない。我侭を言っているのも理解している。しかしだからと納得するには、今日という日はロマンチックが過ぎるのだ。ブラウン管が、街の灯が、静かな夜でも全の中でうるさいままだった。

「んぅ…」
ほんのすこし、布団の上から体重をかける。
小さい体だ。しかし分厚い肉だ。
ぎゅっと反動が返ってくる。気持ちがいい。

「――…んぁ?」
白い眉毛の下、小さな目が半開きで全を見返した。
ああ起こしてしまった。やはり少し公開しながら、全はその顔をじっと見つめた。
寝起きの顔だ。体の割に大きな顔、顎や頬にある肉がむちゃむちゃと動いている。ツバを飲み込み、太い首が上下した。

「……なんだなんだ…」
舌足らずに言いながら、博は全の頭を撫でた。
甘えているとでもとったのだろう。
「なんで、寝てるんですかね」
妙な敬語だった。ここで怒ることまではできず、かといっていつもの口調で言う気にもならなかった。年上の恋人への距離感は未だに掴みあぐねる事が多い。締まらない自分に歯噛みする。
「………あぁ……?……あ…」
褐色の顔を何度かくしゃくしゃと動かしてから、博はあぁと納得の声を出した。寝ぼけた頭が思い出しのだ。今日がどんな夜だかを。

「楽しかったか?」
「楽しかった」
「ならいいだろうが」
「よくない」
口調は思っていた以上に頑なで、博は胸で大きく息をした。
布団をまくる。片手でポンと敷き布団を叩いた。
言葉にするまでもなく、慣れきった動きで全が潜り込んだ。

博の体と布団は暖かかった。
夜道を歩いてきた体は思っていた以上に冷えていて、全はいまさらに布団の中で縮こまった。博にぶつかるまいと、人より大きな体を布団の端へずらしていく。
「こーら」
そんな若い体を、博士の太短い腕がぐいと抱え込んだ。どんと少し強めに大きな背中を叩く。
「ケーキはどうだった」
「みんな喜んでたよ、すぐになくなった」
「あぁやっぱりそうなったか、食うもんなぁ…、おまえさん達は」
「…俺の食べる分、なかった」
「そうか…」
「うん」
「食いたいのか?」
一拍置いて、全は「いいや」と口にした。
どうも違う方向に会話が進んでいる。ケーキをねだりに眠る恋人を起こす男がどこにいる。そうじゃない。甘えにきたのではないのだ。
親子以上に歳の離れた二人だ。少し気を抜くとこうなってしまう。

「だから俺は」
「全…」
「うん」
「おまえさん……」
「うん」
「ねみぃんだろ」
「ねむくない」
全は閉じそうになる瞼で精一杯睨んで答えた。
博が眉間にシワを寄せて笑った。

「明日な、明日」
「クリスマス…」
「愛し合ってる恋人はクリスマスにセックスする、なんて法律はねぇだろぉが、な」
前半部分は今までより随分とはっきりくっきりとした声量で、全はなにもかも押し出されるような思いだった。
絶対に計算で言っている。分かっていながら、全は眼鏡を外した。たたんで、枕の上、ティッシュ箱の横に置く。
「よし」
「明日は」
「ん、絶対だ、今日のところはおっさんはもう店じまいだ」
全の冷えた手が博に捉えられ、そのまま布団の中へ、トランクスの前へ押し当てられた。柔らかい感触だった。
「おまえさんのは、まぁ、仕方ない、か」
ガチガチになった若い下半身を膝で小突いて、博は困ったように笑って言った。

「明日はケーキも作ってやる、それで手打ちだ、な」
「だから、別に……」
言いかけて、言い切れなかった。
やはり食べたいと、そう思った。
「よしよし」と、声を出しながら、博の分厚い手がわしゃわしゃと頭を撫でた。額と、眼鏡を外したばかりの目元まで撫でる。乱暴な手つきだ。悪戯な笑顔だった。褐色な肌に、白い歯が浮いている。日付の変わった暗い夜でもよく見えた。

「さ、寝ろ寝ろ、サンタクロースがこないぞ」
「サンタクロースみたいなお腹して」
「うるせぇ」
腹に手をやった全の手を、博の手がまた包む。今日の位置はここにしよう。このまま眠ってしまおう。

「おやすみ」
「おう、おやすみさん」
また今日も、小さな体に甘えている。
本当はこのまま押し倒してキスしてそれ以上のことをして、この余裕顔に隠された一つの顔を見てみたい。けれどそれは雄というより本当に子供のようで、悔しかった。そしてやはり眠かった。

石川くん以外は、ほんっとガキなんだから。
同級生のいったそんな言葉を思い出す。

ああ、知られたくないなあと、そう思った。
二つ並べられていた枕に今更驚きながら、敵わないなと笑いながら、全はゆっくりと目を閉じた。

明日は先に起きよう。
そう決めた。
  1. 2012/09/30(日) 02:09:50|
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